マクシミリアン・ロベスピエール( Robespierre)

1758..〜1794.7.28

 

 

注目理由

フランス革命の革命的意識と階級対立が最も激化した時期に、革命を守るべく血の粛清を伴う

「恐怖政治(テルール)」を行った人物。必死の反撃にでた保守派や資産家層による「テルミド

ール9日」のクーデターによって失脚し、同志と共に翌日処刑された。彼らの死によりフランス

における「革命」は事実上終結した。その後のフランスを支配したのが彼を打ち倒した「資本家

(ブルジョア)層」であったため、無為に大勢の命を奪ったとして「ルソーの血塗られた右手」

等と呼ばれ蛇蝎視されていたが、20世紀以降、恐怖政治は多くの敵から革命を守ろうとした非常

手段であったと言う認識が生まれ再評価されている。

 

 おいらは中坊の頃からのルソー好きだから、ルソーの政治姿勢を最も純粋な形で継承したと言

われるロベスピエールに興味を持ってました。しかし、彼はフランス革命期に最も多くの人を処

刑した、革命の汚点とも言える人物と言う評価もあり、そのギャップにとまどってました。かつ

ては死刑廃止の論陣を張っていた人物が、何故あんなに多くの人を「処刑」しなくてはならなか

ったのかを自分なりに理解することが難しかったわけです。

今回検討し直してみると、フランス革命は「貧困にあえぐ下層民の蜂起」「貴族や資産家達に

よる弾圧」「蜂起」「弾圧」・・が何度も繰り返されて居るんですね。内政だけでも大変なのに、

オーストリアやベルギーと言った国境を接している王国は、革命の波及を阻止し、出来れば革命

自体を葬り去ろうと、フランス国境での戦争を仕掛けてきます。この混乱を収拾し、革命が旧勢

力や大資本家達によってなし崩し的に終結させられるのを防ぐための「非常手段」として「恐怖

政治」を捉えることで有る程度納得できました。まぁ、こんな政治いつまでも続けてられるわけ

無いしね。

 

んじゃぁ、ロベスピエール政権崩壊の原因をどう考えてるかと言えば、「経済政策の失敗」が

その最大の原因だったと思います。元々、革命は「バスチーユ襲撃」に象徴されるように、経済

的困窮と飢餓に追いつめられた農民や都市の下層階級層がこれまで抱え込まされていた社会に対

する怒りを「爆発させた」という面があります。「貧困とは社会が生み出した罪悪である」とい

うルソーの考えの信奉者であるロベスピエールは、超お金持ち(王族、貴族、大資本家)も超貧

乏人(都市の下層労働者や零細農民)も居ない「みんな中流」の国を作ろうと、中流以下の人た

ちの持つ「武力(暴動や都市での蜂起)」を背景に、非常手段としての高圧的政権を運営したん

ですね。支持基盤層の願いは、民主主義的諸権利よりも、自分たちを「経済的困窮」から救って

くれることだったのです。

 

しかし、彼らが施行した「穀物の最高価格法」「強制公債の発行」「一般最高価格法」「反革命

容疑者の財産没収と無償分配」と言った経済政策は、その経済の実状を捉えていない理想主義的運

用もあり、経済的混乱を収拾する事に失敗。自らの財産を奪われることを恐れた中流以上の人々を

敵に回し、経済運営の失敗によって支持基盤である中流以下の人たちからも見限られて、ロベスピ

エール等は一夜にして失脚し処刑されます。この一見無謀とも言えるクーデターが成立した背景に

は「経済運営の失敗による支持基盤の弱体化」「既存権利を奪われることを恐れた層の反発」「過

去の行いが原因で処刑されることが事実上決まっている人物の必死の反撃」が一つに結びつき、強

烈な一撃となったのでしょう。

 

こう考えると「テルミドールのクーデター」の最大の謎、『議会で拘束されたものの、一旦は釈

放されたロベスピエールがパリの民衆蜂起を指示して反撃に出なかったのは何故か?』という事に

も思い至ります。自らの「経済運営」に自信を失っていたロベスピエールは、このクーデターを潰

すことで起こるさらなる混乱に、これまで彼を支持してくれた「民衆」を巻き込み、彼らの困窮を

深めることを恐れたのではないでしょうか。まぁ、同じルソーの徒の贔屓目といっちゃぁ、それま

でなんですけどね。(^^;

 

 ここに人権宣言に代表されるような崇高な理念を掲げた革命は終結しました。新たな支配階級と

なった大資本家層のもとで個人の経済利益確保を最優先課題とする社会となり、個人の利益として

国と王冠をも要求したナポレオン・ボナパルトの統治を経て、現在に至るのです。

 

参考文献

(1)ロベスピエールとフランス革命 J.M.トムソン 岩波新書

著名な英国人フランス革命史研究家による、ロベスピエールを軸にしたフランス革命史。

ロベスピエール擁護の書としては比較的前期に相当する作品で、革命の純粋さを守ろう

として、絶望的に足掻くロベスピエールの姿が上手く書けてると思う。宗教的熱情と革

命の意識を融合させようと図った「最高存在の祭典」の悲劇的喜劇さに彼の情熱の空回

りを感じさせようとするなど構成は上手い。

ただ、この作品でも彼のキャラクターについては把握し切れていない感じは残る。

彼の周りにいるさらにラジカルな若者達(サン=ジュスト、クトン、ル・バ等)をきちんと描かないと、

革命の指導者にして政治的調整者としてのロベスピエールは描ききれないんじゃないかなぁ。

 

(2)フランス革命期の女たち(上)(下) ガリーナ・セレブリャコフ 岩波新書

バスチーユ襲撃からナポレオン帝政の終焉までを、時代を代表する女性達に託して描い

た好品。読み物としてかなり面白いうえ、巻末のフランス革命年表の出来が良く、革命

の推移を把握するには下手な参考書を読むよりずっと良い。

これをみると、権利の要求を急性に求める下層民の蜂起とそれを圧殺しようとする貴族

や大資本家の虐殺がかなり頻繁に繰り返されているのがわかる。

ロベスピエール率いるジャコバン派贔屓で書かれているが、これは著者がソ連の研究者であるため

だろう。当時(著書は1927年に書かれてる)は社会主義革命続行中だったからねぇ。

だから作品中、最も出来が良いのもロベスピエールの盟友で血の一滴までジャコバンとして生きた

『フィリップ・ル・バ』の奥さん『エリザベト・ル・バ』編。

「小フィリップはずっと母乳で育てなさい。あの子に祖国への愛をうえつけなさい・・・。

父は祖国のために死んだのだと言いなさい。」

「息子のために生きておくれ、あの子を闘士に育てあげておくれ、

あんたにはそれが出来るんだ。達者でな、エリザベト、達者でな。」

と、死を覚悟して市庁舎に向かうフィリップが奥さんに最後にかける言葉は、家族に心を残しなが

らも使命に生きた男の情感がよくでており泣ける。(T^T)

これ映画にして貰えないかなぁ。

 

(3)フーシェ革命暦(上)(下) 辻邦生 文芸春秋

フランス革命史でおざなりに紹介されることが多い「バスチーユ襲撃以前」を、ロベス

ピエールのかつての親友で、彼の失脚と死を影で演出し、ナポレオン失脚にも手腕をふ

るった、稀代のマキャベリスト、世界史最強の裏切り者「ジョセフ・フーシェ」の視点

で描いた作品。ロベスピエールやフーシェのキャラをしっかり押さえるには至っていな

いが、「バスチーユ襲撃以前」の情勢と当時のフランスの農民達の悲惨な状況を理解す

るには良いと思う。

かなり厚い本(上下で1200p)だが、この分量でバスチーユ襲撃までしか書いてないのは凄いぞ、

辻邦生!! 細かい人心の機微まで書き込まれてるのはよいが、さすがに冗長すぎたらしく、続編が

書かれることはなかった・・。このペースでフーシェについて書いてたら、全20巻10000pオバーでも

全然終わらないね。(^^;

 

(4)パリの断頭台 バーバラ・レヴィ 法政大学出版局

フランス革命と言えば「ギロチン」を連想する人もいるでしょう。つーわけで、パリ

の処刑人一族「サンソン家」7代の歴史を描いた本。核になるのはもちろん、「ルイ16

世」「マリー・アントワネット」そして「ロベスピエール」の首を切った4代目「シャ

ルル・アンリ・サンソン」。

世間から差別の目で見られる処刑人達を「死の法を執行するマシーン」としてではなく、

苦悩と諦念を抱えた一人の人間として描くことで、興味深いが難しい題材を俗悪趣味に陥ることなく

書ききっている。読みやすい本だが、資料として用いられることもあるようで、参考文献としての引

用をたまに見かけますね。

 

(5)ナポレオン-獅子の時代4 長谷川哲也著 YKコミックス 

偉大なる皇帝閣下ナポレオン・ボナパルトが主人公の大陸軍漫画。現在連載

中の漫画の中では、個人的に最強(笑)。“北斗の拳”や“魁!男塾”を連

想させる濃ゆーいタッチ必要以上の残酷描写に引いてしまう人も多い

と思うが(自分もそうだったので良くわかる)、そこさえクリアーすればこ

れだけ泥臭く、けれん味に溢れた漫画はそうそう無いぞ。ロマンなんか微塵

も無しだ(笑)。本4巻後半からは、ナポレオンは殆ど出てこず、事実上ロべスピエール

が主人公。「俺も――、人を捨て革命となれ!」と誓うロペスピエールの覚悟やダントン

の“男の死に様”に打ち震えろ。帯はなんと安彦良和さん。とりあえず、帯付き買っとけ。

 

(6)ナポレオン-獅子の時代5 長谷川哲也著 YKコミックス 

リヨン破壊の咎で追い詰められたフーシェは、バラス、タリアンらを仲間に

引き入れ、国民公会にてロべスピエールを弾劾、公安委員会委員逮捕する。

市民の手引きでバスチーユから破獄し、市庁舎に立てこもったロべスピエー

ル達に、バラス率いる公会派の軍勢が迫る。「死は怖くない。だが善が破

れ、悪徳が勝利するのか。革命は終わるのか。」の名台詞が泣ける。フー

シェの狡猾さ、バラスの小悪党ぶり(笑)と、楽しみ所満載の巻。サン・ジュストが生き

延びるのはご愛敬。ちなみに、サン・ジュストの息子さんは苦学して学者になり、運命の

悪戯ナポレオン三世の家庭教師になってるそうです。

 

関連人物

ルソー ・クロムウェル ・ワシントン ・フーシェ ・毛沢東 ・スターリン

 

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